Ⅱ原著森田に見る「治る」とは①

感じとる原著森田学習会 吉澤 隆 

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 原著森田では症状が「治る」ということはどのようにとらえているのでしょうか。これは原著森田における、基本的・本質的な考え方の一つといえます。下の図を見ながら説明します。この図は神経症の悩みと関連づけて、3つの状態を示しています。

治るとは

“±0”のレベル・状態と“マイナス”のレベル・状態 
 まず「“±0”のレベル・状態」です。これは症状のとらわれが出る前の状態と思ってください。症状のことを気にすることなく、周りのみんなと一緒に普通に生活をしていたときということです。このとき、私たちは他の多くの人たちと同じく、いわば「普通の人」といっていい状態だったわけです。

 これに対して、あるときにあるキッカケから、何かの神経質のとらわれが始まりました。この状態は、「“±0”のレベル・状態」と比較すると、私たちの意識としては「“マイナス”のレベル・状態」ととらえられるのではないでしょうか。つまり、症状のとらわれのために、できなくなってしまったことがたくさんある状態であり、それゆえに人間としての平均レベルが下がってしまったという意識を持った状態、というとらえ方です。
 
 もちろん症状のことのみで、自分という人間すべてを否定するというところまではいかないでしょうが、それでもかなり強い劣等感を抱いている状態です。また、そこには生活上の困難や後退が実際に伴い、あせりが生まれ、いろいろなことに対する不安や恐怖が生じていることでしょう。
 
 このような状況に対して私たちは、とにかくまずこの症状を早く治し、この状態から抜け出したいと強く願います。そのときの願いとは、より具体的に表現すれば、「元の状態に戻りたい」とか、「特別なことではなく、ただ“普通の人”になりたいだけ」、あるいは「多くを望むものではない、とにかくこの症状だけ何とかしてくれ」といったことではないでしょうか。とても切実な思いといっていいでしょう。

“プラス”のレベル・状態 
 これに対して森田ではどう言っているか、ということを見ていく前に、もう一つの状態、つまり「“プラス”のレベル・状態」について考えてみましょう。

  悩みの最中にいる人にとってこの「“プラス”のレベル・状態」は、その存在はもちろん知っているが、今はそんなことを考える余裕はない、というのが正直なところではないでしょうか。つまり、当面は考える必要がない状態、ましてや今すぐに追い求める必要などない状態ということでしょう。
 
 ただ、あえて悩みの最中にある人に、その状態はどのようなものかと問うたなら、「症状を気にせず、何でもバリバリとやっている状態」といったことは答えることができ、漠然とした意識ぐらいは持っているかもしれません。

 このようにして見てくると、症状のとらわれのある人にとっては、いわば“二段階方式”でいい状態にもっていく、つまり第一段階として「症状を治して元の状態に戻す」、第二段階としてたとえば「よりよく生きることを考えて行動していく」ということではないでしょうか。
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